非正規雇用の試用期間:知っておきたいルールと注意点
非正規雇用でも試用期間はある?知っておきたいルール
パートやアルバイトとして働き始める際、「試用期間」が設けられることがあります。正社員の場合によく耳にする言葉ですが、非正規雇用でも試用期間は存在するのでしょうか。また、試用期間中はどのような労働条件になり、期間中に解雇されることはあるのでしょうか。
このページでは、非正規雇用における試用期間の基本的なルールや、働く方が知っておくべき権利、注意点について分かりやすく解説します。安心して働き始めるためにも、ぜひご確認ください。
試用期間とは何か
試用期間とは、企業が新しく採用した労働者の適性や能力を評価するために設ける期間です。この期間を通じて、企業は労働者がその職務に適しているか、職場の雰囲気になじめるかなどを判断します。労働者側も、実際に働く中で企業や仕事内容が自分に合っているかを見極める期間と捉えることもできます。
試用期間は法律で義務付けられている制度ではありませんが、多くの企業が採用時に導入しています。正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用で採用される場合にも、試用期間が設定されることがあります。
試用期間中の労働条件
試用期間中であっても、労働者として基本的な権利は保障されます。企業は労働者に対し、労働基準法やその他の関連法令に基づいた労働条件を適用する必要があります。
- 労働条件の明示: 試用期間中であっても、企業は労働契約を結ぶ際に、労働条件通知書を交付して労働条件を明示する義務があります。試用期間の有無、期間、試用期間中の賃金やその他の労働条件などが明記されているか必ず確認しましょう。
- 賃金: 試用期間中の賃金が、本採用後の賃金よりも低く設定されている場合があります。これも労働条件通知書に明記されているはずです。ただし、最低賃金以上の支払いは必須です。
- 労働時間・休憩・休日: 試用期間中であっても、労働時間、休憩時間、休日に関するルールは本採用後と同様に適用されます。法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働させた場合は残業代が発生しますし、法定の休憩時間や休日も与えられる必要があります。
- 社会保険・労働保険: 試用期間中であっても、加入要件を満たしていれば社会保険(健康保険、厚生年金保険)や労働保険(雇用保険、労災保険)に加入する必要があります。
試用期間中の解雇について
試用期間は企業が労働者の適性を判断する期間ですが、試用期間中であれば自由に解雇できるわけではありません。試用期間中の解雇も、通常の解雇と同様に労働契約法に基づき、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものでなければ無効となる可能性があります(解雇権濫用の法理)。
ただし、採用後14日以内であれば、解雇予告に関するルールが一部異なります。
- 採用から14日以内の解雇: 採用日から14日以内に解雇する場合、企業は労働者に対して解雇予告(原則として解雇日の30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金を支払うこと)を行う必要がありません。しかし、この期間内であっても、企業が客観的に合理的な理由(例:経歴詐称、度重なる無断欠勤など、当初知ることができず、試用期間中に判明した事実で、引き続き雇用することが困難なほどの重大な事由)に基づき、社会通念上相当な理由があると認められる場合に限られます。単に「イメージと違った」といった曖昧な理由での解雇は認められにくいです。
- 採用から14日経過後の解雇: 試用期間中であっても、採用日から14日を超えて労働している場合は、企業が労働者を解雇する際には、原則として30日以上前に解雇予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。この場合の解雇も、通常の解雇と同様に解雇権濫用の法理が適用されます。
試用期間満了時の本採用拒否
試用期間が満了した際に、企業が本採用を拒否することも考えられます。これは「本採用拒否」と呼ばれます。
本採用拒否は、法的には解雇と同じように扱われます。したがって、企業が本採用を拒否するためには、試用期間中に判明した事実に基づいて、「本採用することが不適当であると認められるだけの客観的・合理的な理由」が必要であり、社会通念上相当と認められるものでなければなりません。単に成績が伸び悩んだといった程度では、本採用拒否の正当な理由とは認められない場合が多いです。
不当な本採用拒否ではないか疑問がある場合は、後述の相談窓口に相談することを検討しましょう。
試用期間中に自己都合で退職したい場合
試用期間中であっても、労働者は自身の意思で退職を申し出ることができます。雇用契約の期間が定められているか(有期雇用契約か)いないか(無期雇用契約か)でルールが異なります。
- 期間の定めのない雇用契約の場合: 試用期間中であっても、退職の意思表示をしてから原則として2週間が経過すれば雇用契約は終了します(民法第627条)。ただし、就業規則に退職に関する定めがある場合はそれに従うのが一般的です。
- 期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)の場合: 契約期間の途中で自己都合退職するには、原則として企業の同意が必要となります。ただし、「やむを得ない事由があるとき」は直ちに契約を解除できるとされています(民法第628条)。やむを得ない事由がない場合でも、労働契約法第17条により、有期雇用契約においても「期間の途中で労働者がいつでも退職できる特約」が有効であることや、「契約期間が1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、契約期間の初日から1年を経過した後であれば、使用者に申し出ることによりいつでも退職できる」といったルール(労働契約法第18条)も存在します。試用期間は有期契約の期間に含まれるため、これらのルールも適用される可能性があります。
試用期間中の退職を検討している場合は、まずは雇用契約書や労働条件通知書、就業規則を確認し、人事担当者と相談することをお勧めします。
試用期間に関するトラブルの相談先
試用期間中の労働条件について不明な点がある場合や、解雇・本採用拒否に疑問を感じる場合は、一人で悩まずに専門機関に相談することが重要です。
- 労働組合: 職場に労働組合があれば相談できます。個別の労働者の相談に乗ってくれる合同労組なども存在します。
- 労働基準監督署: 労働基準法に違反するような賃金の未払いや、不当な労働条件、解雇などについて相談できます。ただし、個別のトラブル解決の仲介は行わない場合があります。
- 都道府県労働局: 総合労働相談コーナーが設置されており、労働問題全般について無料で相談できます。必要に応じて、紛争解決のあっせん制度なども利用できます。
- 弁護士: 法的なトラブルに発展した場合や、個別の事案に強い法的助言が必要な場合は弁護士に相談することを検討します。
まとめ
非正規雇用であっても、試用期間中の労働条件や解雇には法律上のルールが存在します。働き始める前に労働条件通知書で試用期間に関する定めをよく確認し、期間中も自身の労働条件を把握しておくことが大切です。もし不当な扱いを受けていると感じた場合は、一人で抱え込まず、適切な相談窓口を利用してください。自身の権利を知り、行動することが、より良い働き方につながります。