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非正規雇用者が知っておくべき業務命令のルール:従う義務と拒否できるケース

Tags: 業務命令, 従う義務, 不当な指示, 非正規雇用, 労働者の権利

非正規雇用で働く皆様にとって、会社からの業務に関する指示(業務命令)にどこまで従う必要があるのか、また「これは少し違うのでは?」と感じる指示に対してどのように対応すれば良いのかは、時に悩ましい問題かと思います。労働契約を結んで働いている以上、基本的な業務命令には従う義務がありますが、その範囲は無制限ではありません。

この記事では、非正規雇用者が知っておくべき業務命令に関する基本的なルール、どのような場合に命令に従う義務があるのか、そしてどのような場合に拒否できる可能性があるのかについて解説します。自身の労働条件や権利を正しく理解し、安心して働くための一助となれば幸いです。

業務命令とは?非正規雇用者も従う義務がある?

まず、業務命令とは、使用者が労働者に対して発する、職務遂行に関する指示や命令全般を指します。例えば、「〇〇の業務を行ってください」「この時間までにこの作業を終えてください」「△△へ行って顧客と打ち合わせをしてください」といったものが業務命令にあたります。

労働契約は、労働者が使用者の指揮命令下で働き、使用者がその労働に対して賃金を支払うという約束です。そのため、労働者は、労働契約に基づき、使用者の適法かつ合理的な業務命令に従う義務を負います。

この業務命令に従う義務は、正社員であるか非正規雇用者(パート・アルバイト、契約社員など)であるかを問いません。非正規雇用者も、使用者との間に労働契約がある以上、原則として業務命令に従う義務があります。

業務命令に従う義務の範囲

労働者は業務命令に従う義務がありますが、その義務は無制限ではありません。業務命令に従う義務の範囲は、基本的に労働契約の内容によって決まります。

従う義務がない、あるいは拒否できる可能性があるケース

一方で、以下のような業務命令に対しては、従う義務がない、あるいは拒否できる可能性があります。

  1. 労働契約で定められた範囲外の業務命令: 労働契約や労働条件通知書に明記されていない業務内容や、合意していない勤務場所への異動命令など、契約の範囲を明らかに超える命令は、原則として従う義務はありません。ただし、包括的な業務内容で契約していたり、就業規則に異動の可能性が明記されていたりする場合は、判断が異なります。ご自身の労働契約内容をよく確認することが重要です。

  2. 法令に違反する指示: 例えば、最低賃金を下回る賃金での労働を命じたり、労働基準法で定められた休憩時間や休日を与えずに働かせたりする指示、あるいは会社の経費を不正に操作するなどの違法行為を命じたりする指示は、労働者は従う義務がありません。法令遵守は使用者、労働者双方に求められる基本的なルールです。

  3. 就業規則に違反する指示: 会社の就業規則に明確に定められているルールに反する指示も、原則として従う義務はありません。例えば、就業規則で認められている服装や髪型について、合理的な理由なく変更を強制されるような場合などです。

  4. 権利の濫用と見なされるような不合理な指示: 業務上の必要性がなく、特定の労働者に対する嫌がらせや不利益を与える目的で行われるような指示は、権利の濫用と見なされ、無効となる可能性があります。個人の尊厳を傷つけるようなハラスメント行為や、業務と全く関係のない私的な事柄に関する命令などもこれにあたります。

  5. 労働者の生命や健康を著しく危険にさらす指示: 安全対策が不十分な場所での作業命令や、過労によって明らかに健康を害するような過重労働を継続的に命じられるような場合は、生命や健康を守るため、従う義務はないと考えられます。

不当な業務命令を受けた場合の対応策

「これはおかしい」と感じる業務命令を受けた場合、すぐに拒否するのではなく、まずは落ち着いて状況を確認し、適切な手順を踏むことが重要です。

  1. 指示内容の確認と記録: どのような指示を受けたのか、具体的な内容を正確に把握します。可能であれば、指示を受けた日時、場所、指示の内容、指示者などをメモするなどして記録に残しておきましょう。メールなど文字で残る形で指示を受けるようお願いすることも有効です。

  2. 会社との話し合い: 指示内容に疑問や懸念がある場合は、まずは指示者や上司に確認を求め、疑問点を伝えて話し合う機会を持ちましょう。ご自身の労働契約や就業規則、関連法規などを根拠に、なぜ従うことが難しいのか、あるいはなぜ不当だと感じるのかを具体的に説明することが効果的です。感情的にならず、冷静に事実とルールに基づいて話を進めることが大切です。

  3. 社内の相談窓口の活用: 会社に人事部やコンプライアンス窓口、ハラスメント相談窓口などがあれば、そこに相談してみることも一つの方法です。社内ルールに則った対応を期待できます。

  4. 外部機関への相談: 社内で解決が難しい場合や、相談できる窓口がない場合は、外部の専門機関に相談することを検討しましょう。

    • 労働組合: 職場の労働組合に加入している場合は、組合を通じて会社と交渉してもらうことができます。個人で加入できるユニオンもあります。
    • 労働基準監督署: 労働基準法などの法令違反にあたる業務命令の場合は、労働基準監督署に相談することができます。匿名での相談も可能です。
    • 弁護士: 労働問題に詳しい弁護士に相談することで、法的な観点からのアドバイスや、会社との交渉、訴訟などの対応を依頼することができます。

まとめ

非正規雇用者であっても、労働契約に基づき会社の適法で合理的な業務命令には従う義務があります。しかし、労働契約の範囲を超える命令、法令や就業規則に違反する命令、権利の濫用にあたる不当な命令、生命や健康を危険にさらす命令などに対しては、従う義務がない、あるいは拒否できる可能性があります。

不当な業務命令に直面した際は、一人で悩まず、まずは労働契約の内容や会社のルールを確認し、冷静に話し合いを試みてください。解決が難しい場合は、労働組合や労働基準監督署といった外部機関への相談を検討することが、ご自身の権利を守る上で非常に重要です。

ご自身の働く上での権利や義務について正しく理解し、もしもの時に適切な対応を取れるように準備しておくことは、安心して働き続けるための大切な一歩です。