非正規雇用者が知っておくべき秘密保持義務:退職後も情報は漏らしてはいけない?
秘密保持義務とは?非正規雇用者にも関係がある?
会社で働いていると、「会社の情報は外部に漏らしてはいけない」と言われたり、入社時に秘密保持に関する書類への署名を求められたりすることがあります。これは「秘密保持義務」に関わるものです。
会社の秘密保持義務は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員といった非正規雇用者にも原則として関係があります。業務上知り得た会社の秘密情報を守ることは、雇用形態にかかわらず、会社との信頼関係を維持し、円滑に業務を行う上で非常に重要となるからです。
しかし、「どこまでが秘密なの?」「うっかり話してしまったらどうなるの?」「会社を辞めた後も関係あるの?」といった疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
この章では、非正規雇用者の方が知っておくべき秘密保持義務の基本と、特に気になる退職後の秘密保持義務について解説します。
なぜ秘密保持義務が重要視されるのか
企業にとって、技術情報、顧客リスト、経営戦略、価格情報、人事情報などの様々な情報は、事業活動を行う上で非常に価値のある財産です。これらの情報が外部に漏洩すると、企業の競争力が低下したり、顧客や取引先からの信頼を失ったり、場合によっては損害賠償請求に繋がることもあります。
そのため、多くの企業は従業員に対して秘密保持義務を課し、情報の漏洩を防いでいます。これは、雇用形態にかかわらず、会社の財産を守るために必要なルールとして定められています。
どこまでが「秘密」とされる情報?
秘密保持義務の対象となる「秘密情報」の範囲は、会社の事業内容や就業規則、あるいは個別に交わされる秘密保持契約によって異なります。一般的には、以下のような情報が秘密情報とみなされる可能性があります。
- 技術情報: 製品の製造方法、設計情報、研究開発データなど
- 営業情報: 顧客リスト、販売戦略、価格設定、取引条件など
- 経営情報: 未公開の財務状況、事業計画、M&Aに関する情報など
- 人事情報: 従業員の給与、評価、病歴など
- その他: 会社のノウハウ、特別な業務プロセス、非公開の会議内容など
ただし、単に知られたくない情報全てが秘密情報となるわけではありません。秘密情報として法的に保護されるためには、通常、以下の要件を満たす必要があります。
- 秘密管理性: 情報が秘密として管理されていること(例:アクセス制限、資料への「マル秘」表示など)
- 有用性: 情報が客観的に見て事業活動にとって有用であること
- 非公知性: 情報が既に公になっていないこと
業務上、どのような情報が秘密情報に当たる可能性があるのか、会社の就業規則や指示をよく確認することが重要です。
秘密保持義務はどのように発生する?
従業員の秘密保持義務は、主に以下のいずれか、あるいは組み合わさった形で発生します。
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労働契約に伴う当然の義務(信義則): 労働契約を結んで働く上で、労働者は会社の利益を不当に害さないよう誠実に働く義務があります。その一環として、業務上知り得た会社の秘密情報を正当な理由なく外部に漏らさないという義務が当然に発生すると考えられています。これは、特に書面で約束をしていなくても生じる可能性があります。
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就業規則: 多くの会社の就業規則には、秘密保持に関する規程が盛り込まれています。就業規則は、会社で働く上での基本的なルールブックであり、労働者は原則としてこれを遵守する義務があります。
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秘密保持契約書(誓約書など): 入社時や特定の業務に就く際に、個別に秘密保持に関する契約書や誓約書への署名を求められることがあります。この場合、契約書に定められた内容に従う義務が生じます。
非正規雇用者であっても、これらのいずれか、または複数の根拠に基づいて秘密保持義務を負うことになります。
非正規雇用者にも秘密保持義務は適用される?
はい、原則として非正規雇用者にも秘密保持義務は適用されます。
秘密保持義務は、雇用形態の区分ではなく、「会社の秘密情報にアクセスする立場にあるか」に基づいて発生することが一般的です。パートやアルバイトであっても、業務の内容によっては正社員と同様に会社の重要な秘密情報に触れる機会があります。例えば、顧客情報を取り扱う部署で働く場合や、新サービスの企画に関わる場合などです。
会社によっては、雇用形態にかかわらず全員に秘密保持に関する誓約書の提出を求めたり、就業規則で一律に秘密保持義務を定めたりしています。ご自身の雇用契約や就業規則を確認し、どのようなルールが適用されているのかを把握することが大切です。
秘密保持義務違反となったら?
秘密保持義務に違反し、会社の秘密情報を漏洩した場合、以下のような措置が取られる可能性があります。
- 懲戒処分: 就業規則に基づき、戒告、減給、出勤停止、あるいは最も重い場合は懲戒解雇といった処分を受けることがあります。
- 損害賠償請求: 会社が情報漏洩によって具体的な損害を被った場合、その損害について会社から賠償請求をされる可能性があります。
- 刑事罰: 漏洩した情報が「営業秘密」として不正競争防止法で保護されるような高度な秘密情報である場合、刑事罰の対象となる可能性もゼロではありません。
ただし、すぐに懲戒解雇や損害賠償となるわけではなく、情報の内容、漏洩の経緯、会社に与えた影響の大きさなど、様々な要素が考慮されて判断されることになります。
退職後も秘密保持義務は続くのか?
多くの秘密保持義務は、雇用契約が終了した後も一定期間、あるいは情報が秘密でなくなるまで続くのが一般的です。
特に、入社時に秘密保持契約書(誓約書)を交わしている場合、その契約書に退職後の秘密保持義務について明記されていることがほとんどです。契約書には、秘密保持義務が継続する期間や、対象となる情報の範囲が具体的に定められている場合があります。
また、たとえ書面での契約がなくても、業務上知り得た高度な企業秘密(営業秘密など)については、不正競争防止法に基づき、退職後も使用したり公開したりすることが禁じられています。
退職後にうっかり秘密情報を漏洩してしまい、思わぬトラブルに巻き込まれることを避けるためにも、自身がどのような秘密保持義務を負っているのか、そして退職後もそれが続くのかどうかを、退職前に会社の就業規則や契約書でしっかりと確認しておくことが重要です。不明な点があれば、会社の担当部署に確認してみましょう。
もし秘密保持契約書への署名を求められたら?
入社時や在職中に会社から秘密保持契約書や誓約書への署名を求められることはよくあります。
内容をよく読まずに署名することは避けましょう。特に以下の点を注意深く確認してください。
- 秘密情報の範囲: どのような情報が秘密として扱われるのかが具体的に書かれているか。
- 義務の期間: いつまで秘密保持義務が続くのか。退職後も続く場合、その期間は妥当か。
- 義務違反の場合の罰則や損害賠償: どのような場合に、どのような責任を負う可能性があるか。
内容に不明な点があったり、あまりにも広範な情報が対象になっていたり、義務の期間が不当に長かったりする場合は、署名の前に会社に説明を求めたり、内容の修正を交渉したりすることも考えられます。必要であれば、労働組合や弁護士などの専門家にも相談を検討しても良いでしょう。ただし、秘密保持契約の締結が雇用条件となっている場合もあります。
まとめ:自身の権利と義務を知るために
非正規雇用者であっても、業務上知り得た会社の秘密情報を守る秘密保持義務を負うのが原則です。これは、会社との信頼関係や企業の財産を守るために必要なルールです。
- ご自身がどのような秘密保持義務を負っているのか、就業規則や雇用契約書、別途交わした誓約書などを確認しましょう。
- どのような情報が秘密情報にあたるのか、会社のルールや指示を把握しておきましょう。
- 特に退職後も秘密保持義務が続く可能性があるため、退職前に改めて確認することが重要です。
もし、秘密保持に関して疑問や不安がある場合は、一人で抱え込まずに会社の担当部署に確認したり、必要に応じて労働組合や専門家(弁護士など)に相談することも検討してください。ご自身の権利だけでなく、義務についても正しく理解し、安心して働くことが大切です。