パート・アルバイトの応募・面接で確認すべき労働条件:法律上の明示義務と自身の権利
非正規雇用として働く場所を探している際、応募書類の提出や面接を経て、採用が決まることがあります。この過程で、働く時間や給与、休日といった労働条件について、どの程度確認できるのか、また企業はどこまで説明する義務があるのか、疑問に感じることがあるかもしれません。
労働条件は、働く上での基本的なルールであり、後々のトラブルを防ぐためにも、採用前にしっかりと確認することが非常に重要です。企業には、労働者を採用する際に、労働条件を正確に伝えなければならない義務があります。
企業には労働条件を明示する義務がある
労働基準法第15条において、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定められています。これは正社員だけでなく、パート・アルバイトといった非正規雇用者に対しても適用されるルールです。
労働条件の明示は、原則として書面で行う必要があります。現在では、労働者が希望すれば、FAXやEメールなどの電磁的な方法での明示も認められています。一般的には「労働条件通知書」という形で交付されます。
明示が必要な労働条件には、「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」があります。
- 絶対的明示事項: 必ず明示しなければならない項目です。
- 相対的明示事項: 企業がその制度を定めている場合に、明示しなければならない項目です。
絶対的明示事項として必ず確認すべき労働条件
特にパート・アルバイトの方が採用前に必ず確認すべき、絶対的明示事項は以下の通りです。
- 労働契約の期間に関する事項:
- 契約期間が定められているか、定められていないか。
- 期間の定めがある契約(有期労働契約)の場合、契約期間はいつからいつまでか。
- 契約を更新する場合の基準(例:本人の勤務成績、会社の経営状況など)や、更新の上限(回数、期間)があるかどうか。
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項:
- 働く場所はどこか(店舗名、所在地など)。
- 具体的にどのような業務を行うのか。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項:
- 1日の始まりと終わりの時刻。
- 1日の休憩時間(例:1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上)。
- 週に何日休みがあるか、またその曜日は固定か不定か。
- 年末年始休暇や夏季休暇など、特定の休暇制度があるか。
- 賃金(臨時に支払われる賃金を除く)に関する事項:
- どのような形態で支払われるか(時給、日給、月給など)。
- 賃金の額。
- 計算方法(例:時給1000円)。
- 支払いの方法(例:銀行振込)。
- 支払いの時期(例:毎月25日払い)。
- 賃金の締め切り日(例:毎月末日締め)。
- 昇給に関する事項(昇給の有無、基準など)。
- 退職に関する事項:
- 退職の手続き(自己都合退職の場合、いつまでに誰に申し出る必要があるかなど)。
- 解雇の事由(どのような場合に解雇される可能性があるか)。
これらの項目は、応募者や労働者にとって、働くことを決める上で最も基本的な情報です。特に有期労働契約の場合は、契約更新の有無や基準をしっかりと確認しておくことが、雇い止めに関する不安を減らす上で非常に重要です。
相対的明示事項として定めがあれば確認すべき労働条件
以下の項目は、企業がその制度やルールを設けている場合に明示が必要となるものです。
- 退職手当(退職金)に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(賞与など)及び最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項(例:制服代、備品代など)
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の疾病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
パート・アルバイトの場合、退職金や賞与は正社員と異なることが多いですが、制度があるかどうか、ある場合はどのような条件で支給されるかなどを確認できます。また、働く上で制服代や備品代などが自己負担となるのかどうかも、応募前に確認しておきたいポイントでしょう。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
採用決定後に交付される「労働条件通知書」は、企業が労働者に対して労働条件を一方的に通知するものです。一方、「雇用契約書」は、企業と労働者が労働条件について合意したことを証明する書類であり、双方が署名・押印することが一般的です。
法律上、労働条件の明示は義務ですが、雇用契約書の作成・締結は義務ではありません。しかし、雇用契約書を交わすことで、労働条件について企業と労働者の双方が確認し、合意したことを明確にできるため、後々の認識のずれによるトラブル防止に繋がります。労働条件通知書と雇用契約書の両方を交付する企業もあります。
応募・面接時に自身が確認すべきポイント
法律で明示が義務付けられている項目に加え、自身の働き方に関する希望や疑問点について、面接時などに積極的に質問し、確認することも大切です。例えば、以下のような点です。
- 具体的なシフトの決め方(自己申告制か、会社が指定するかなど)
- 残業は発生するか、発生した場合の残業代の計算方法
- 有給休暇はいつから、何日付与されるのか
- 休憩時間はどのように取得するのか(まとめてか、分割かなど)
- 交通費・通勤手当の支給条件と計算方法
- 社会保険(健康保険、厚生年金保険)、雇用保険、労災保険の加入条件
- 制服や備品の貸与はあるか、自己負担は必要か
- 給料日や支払い方法
面接の最後に「何か質問はありますか?」と聞かれることが多いので、これらの疑問点をあらかじめ整理しておくと良いでしょう。
明示された労働条件が事実と異なる場合
明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は労働契約を即時に解除することができます(労働基準法第15条第2項)。この場合、企業は労働者の帰郷旅費を負担しなければならないとされています。
また、採用後に、求人票や面接時に説明された労働条件よりも不利益な条件で働かされることがないか確認することも重要です。労働契約は、労働者と使用者が対等の立場で締結するべきものであり、一方的に不利益な労働条件を押し付けられるものではありません。
労働条件が不明確な場合の対応
もし労働条件の明示がない、あるいは口頭での説明のみで不明確な場合、働く上での不安やトラブルの原因となります。まずは企業に対し、労働条件通知書などの書面での明示を求めるようにしましょう。
それでも対応がない場合や、労働条件について企業と認識のずれがある場合は、労働基準監督署に相談することも有効な手段です。労働基準監督署は、労働基準法に基づき企業を指導する機関であり、労働条件の明示義務違反についても相談に応じてくれます。
まとめ
非正規雇用で働く皆さんが、安心して働くためには、採用される前に労働条件をしっかりと確認することが最初の、そして最も重要なステップです。企業には労働条件を正確に明示する義務があり、働く側にもそれらを理解し、不明な点は確認する権利があります。
労働条件通知書の内容を隅々まで確認し、疑問があれば遠慮なく質問するようにしましょう。採用前の丁寧な確認が、その後の働きやすさに繋がります。
もし労働条件に関して不安や疑問、あるいはトラブルが発生した場合は、一人で抱え込まず、労働基準監督署などの公的な相談窓口を利用することも検討してください。自身の権利を知り、適切に行動することが、より良い働き方を実現するための一歩となります。