非正規雇用者のための異動・配置転換ガイド:拒否できるケースと労働条件
非正規雇用で働く中で、会社から別の店舗や部署への異動、あるいは仕事内容の変更(配置転換)を打診されることがあるかもしれません。正社員であればよくあることですが、非正規雇用の場合も、異動や配置転換は行われるのでしょうか。また、もし打診された場合、それを拒否することは可能なのでしょうか。
ここでは、非正規雇用者が異動や配置転換について知っておくべき基本的なルールと、自身の権利についてご説明します。
非正規雇用者にも異動・配置転換はあるのか
結論から申し上げますと、非正規雇用者であっても、会社からの異動や配置転換の指示の対象となる可能性はあります。ただし、その可否や範囲は、個々の雇用契約の内容に大きく依存します。
正社員の場合、一般的に労働契約において勤務場所や従事する業務が限定されていないことが多く、会社には広範な人事権が認められています。そのため、特別な事情がない限り、異動や配置転換を拒否することは難しいとされています。
一方、非正規雇用者の場合は、雇用契約書や労働条件通知書、あるいは就業規則によって、働く場所(勤務地)や具体的な仕事内容(業務内容)が限定されているケースが多く見られます。
異動・配置転換が可能か判断するポイントは「契約内容」
会社が非正規雇用者に対して異動や配置転換を命じることができるかどうかは、まずはご自身の雇用契約書や労働条件通知書の内容を確認することが最も重要です。
具体的には、以下の点を確認してください。
- 勤務場所の限定: 雇用契約書に特定の店舗名や事業所名が明記されており、「勤務場所を〇〇に限定する」といった記載があるか。
- 業務内容の限定: 従事する業務内容が具体的に限定されており、「〇〇の業務にのみ従事する」といった記載があるか。
- 就業規則: 就業規則に異動や配置転換に関する規定があり、それが非正規雇用者にも適用される旨の記載があるか。また、異動・配置転換の可能性や範囲についてどのような規定があるか。
これらの書類に勤務場所や業務内容が明確に限定されている旨が記載されている場合、原則として会社は契約で定められた範囲を超えた異動や配置転換を一方的に命じることはできません。もし会社から指示があったとしても、契約内容を根拠に話し合うことが可能です。
異動・配置転換を「拒否できる」可能性のあるケース
前述の通り、雇用契約で勤務場所や業務内容が明確に限定されている場合は、その範囲を超える異動・配置転換は原則として拒否できます。
では、契約書に明確な限定がない場合はどうでしょうか。この場合、会社からの異動・配置転換の指示は有効となる可能性が高くなります。しかし、限定がない場合でも、例外的にその指示が権利の濫用と判断され、無効となるケースがあります。
権利濫用と判断される可能性のある主なケースは以下の通りです。
- 業務上の必要性がない: 会社が従業員を異動・配置転換させることについて、事業運営上の合理的な必要性が全くない場合。
- 不当な動機・目的: 報復や嫌がらせ、退職に追い込むことなどを目的とした異動・配置転換である場合。
- 労働者に著しい不利益を与える: 異動によって通勤が極めて困難になる、家族の介護が必要な状況で転居を伴う異動を命じられるなど、労働者の生活に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合で、かつ業務上の必要性が低い場合。
ただし、これらの判断は個別の状況によります。契約内容の確認と合わせて、異動・配置転換の背景や自身の状況を整理することが重要です。
異動・配置転換に伴う労働条件の変更
異動や配置転換に伴って、勤務時間、休日、賃金、通勤手当などの労働条件が変わる場合があります。
労働条件の変更は、原則として労働者の同意が必要です(労働契約法第8条)。ただし、就業規則に労働条件の変更に関する合理的な規定があり、その就業規則が労働者に周知されている場合は、労働者の同意がなくても労働条件が変更されることがあります(労働契約法第9条、第10条)。
異動や配置転換の打診を受けた際は、それに伴う労働条件がどのように変更されるのか、会社に説明を求めるようにしてください。変更後の労働条件が現在の契約内容や就業規則と照らし合わせて適正であるかを確認しましょう。特に、不利益となる変更がある場合は、その変更に同意するかどうかを慎重に判断する必要があります。
異動・配置転換を打診されたらどう対応するか
会社から異動や配置転換の打診を受けたら、まずは落ち着いて以下のステップで対応を検討しましょう。
- 雇用契約書・労働条件通知書、就業規則を確認する: ご自身の契約内容や会社のルールを正確に把握することが第一歩です。
- 会社に説明を求める: 異動・配置転換の目的や理由、それに伴う業務内容や労働条件の変更点について、会社に丁寧に説明を求めましょう。疑問点や不安な点があれば、遠慮なく質問することが大切です。
- 契約内容や自身の状況と照らし合わせる: 説明を受けた内容が、契約で限定されている範囲を超えていないか、またご自身の生活状況に著しい不利益をもたらすものではないかなどを検討します。
- 会社と話し合う: 契約内容に反する場合や、業務上の必要性に疑問がある場合、あるいは生活への影響が大きい場合は、会社と話し合いの機会を持つことが重要です。代替案の提示や、異動時期の調整などを相談できる可能性もあります。
- 外部機関に相談する: 話し合いがうまくいかない場合や、会社の指示に納得がいかない場合は、一人で抱え込まずに外部機関に相談することを検討しましょう。労働組合に加入している場合は組合に、加入していない場合は労働基準監督署や弁護士、あるいは総合労働相談コーナーなどが相談先として考えられます。
まとめ
非正規雇用者の異動・配置転換は、ご自身の雇用契約の内容が最も重要な判断基準となります。契約書や労働条件通知書に勤務場所や業務内容の限定が明記されているか、就業規則はどうなっているかを必ず確認してください。
もし会社から異動・配置転換の指示があった場合は、その内容をよく確認し、契約やルールに照らして適正であるかを判断することが大切です。納得できない場合や不安がある場合は、まずは会社と話し合い、必要であれば外部の専門機関に相談することを検討してください。自身の権利を正しく理解し、適切な対応をとることが、安心して働くことに繋がります。