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非正規雇用の賃金未払い・遅配:知っておくべき権利と対処法

Tags: 賃金未払い, 賃金遅配, 給料, 労働基準法, 権利, パート, アルバイト, 非正規雇用

賃金未払いや遅配に直面したら:非正規雇用者の権利

パートやアルバイトといった非正規雇用で働く際、最も重要な契約内容の一つが賃金です。しかし、定められた給料日に賃金が支払われなかったり、一部しか支払われなかったりといった「賃金未払い」や「賃金遅配」の問題に直面することがあります。

こうした状況は働く上で大きな不安を招きますが、非正規雇用者であっても、正社員と同様に賃金を期日通りに、全額受け取る権利があります。日本の労働基準法では、賃金支払いについて明確なルールが定められています。賃金の未払いや遅配は、会社の規模や雇用形態にかかわらず、労働基準法に違反する行為です。

ここでは、非正規雇用の方が賃金の未払いや遅配に遭遇した場合に知っておくべき権利と、取るべき具体的な対処法について解説します。

賃金支払いの基本ルール

労働基準法第24条では、賃金支払いに関する重要な原則が定められています。これを賃金支払いの五原則と呼びます。

  1. 通貨払いの原則: 賃金は日本円で支払われなければなりません。(例外として、労使協定がある場合は現物支給や銀行振込も認められます)
  2. 全額払いの原則: 税金や社会保険料などの法令で定められたもの、あるいは労使協定があるものを除き、賃金は全額支払われなければなりません。会社が勝手に賃金の一部を差し引くことは原則としてできません。
  3. 直接払いの原則: 賃金は労働者本人に直接支払われなければなりません。親権者や代理人への支払いは認められません。
  4. 毎月1回以上払いの原則: 賃金は少なくとも毎月1回以上支払われなければなりません。
  5. 一定期日払いの原則: 賃金は毎月決められた一定の期日を定めて支払われなければなりません。

特に「全額払いの原則」と「一定期日払いの原則」は、賃金未払いや遅配に関わる重要な原則です。これらの原則に反する行為は、労働基準法違反となります。非正規雇用者だからといって、これらの原則が適用されないということはありません。

なぜ賃金未払いや遅配が起きるのか

賃金未払いや遅配が発生する背景には、様々な理由が考えられます。

理由がなんであれ、正当な理由なく賃金が支払われない、あるいは遅れることは労働者の権利侵害です。

賃金未払いや遅配が発生した場合の対処法

もし賃金が支払われなかったり、期日通りに支払われなかった場合は、以下の手順で対応を検討することができます。

1. 事実関係と証拠の確認・収集

まずは、実際に賃金が未払いや遅配になっている事実を確認し、その証拠を集めることが重要です。

これらの証拠は、後々会社と話し合う際や、外部機関に相談する際に非常に役立ちます。

2. 会社への確認と請求

まずは、経理上のミスなども考えられるため、会社の担当者や責任者に直接確認してみましょう。口頭での確認だけでなく、後々のためにメールや書面で問い合わせを行い、記録を残すことを推奨します。

確認しても支払われなかったり、会社が支払いを拒否したりする場合は、書面で正式に請求を行います。この際、内容証明郵便を利用すると、いつ、どのような内容の書類を誰に送ったかという事実を公的に証明できるため効果的です。書面には、未払いとなっている期間、金額、支払い期日などを明記します。

3. 労働基準監督署への相談・申告

会社との直接の交渉がうまくいかない場合や、会社が話し合いに応じない場合は、労働基準監督署に相談することを検討してください。労働基準監督署は、労働基準法に基づいて事業場を監督し、法違反を取り締まる機関です。

賃金未払いは労働基準法違反にあたるため、労働基準監督署に相談することができます。状況によっては、労働基準監督署が会社に対して指導や是正勧告を行ってくれる場合があります。申告を行う場合は、収集した証拠を持参すると話がスムーズに進みます。

4. 弁護士など専門家への相談

より専門的なアドバイスや、会社との交渉代理、法的手続きを検討したい場合は、弁護士などの専門家に相談することも有効です。労働問題に詳しい弁護士であれば、状況に応じた最適な対応方法を提案してくれます。

5. 法的手段

最終的な手段として、少額訴訟や労働審判、通常訴訟といった法的手続きを検討することも可能です。これらの手続きを通じて、裁判所を介して賃金の支払いを求めることになります。手続きには専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談しながら進めるのが一般的です。

未払い賃金の請求権には時効がある

未払いとなっている賃金を請求する権利には、時効があります。民法改正により、2020年4月1日以降に発生した賃金請求権の時効は、原則として5年間となりました。ただし、当分の間は3年間とする経過措置が設けられています。

時効期間を過ぎると、原則として賃金の支払いを求めることが難しくなります。未払いが発生した場合は、なるべく早く対応を開始することが重要です。

また、会社が賃金を支払期日から遅れて支払った場合、本来の支払期日の翌日から実際に支払われた日までの期間について、遅延損害金が発生する場合があります。退職後の賃金については、より高い利率での遅延損害金が発生する可能性もあります。

まとめ

非正規雇用であっても、働いた分の賃金を定められた期日に全額受け取ることは、労働者として当然の権利です。賃金未払いや遅配は、決して泣き寝入りする問題ではありません。

もし賃金の問題に直面したら、まずは落ち着いて事実関係を確認し、給与明細や勤怠記録などの証拠を集めてください。そして、会社に確認・請求を行い、改善が見られない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することを強く推奨します。

一人で悩まず、自身の権利を守るために適切な行動を取りましょう。