パート・アルバイトの解雇と雇い止め:知っておくべき権利
「パートやアルバイトでも、いきなりクビにされることはあるの?」 「契約期間が終わったら、特に理由もなく契約を更新してもらえないのだろうか?」
非正規雇用として働く中で、ご自身の雇用がいつまで続くのか、突然職を失うのではないか、といった不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。正社員ではないから、解雇や契約終了は仕方がない、と諦めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、パートやアルバイトといった非正規雇用の方にも、労働契約法などによって守られている権利があります。会社は正社員と同じように、非正規雇用の方を簡単に解雇したり、一方的に契約を打ち切ったりすることはできません。
この章では、パートやアルバイトの解雇と雇い止めに関する基本的なルールと、ご自身の権利を知っていただくため解説します。
解雇とは?
まず「解雇」とは、会社側から一方的に労働契約を解除することを指します。これは、労働者に何らかの問題があった場合や、会社の経営状況が悪化した場合などに検討されることがあります。
ただし、会社が労働者を解雇するためには、法律によって厳しく要件が定められています。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。
これは、解雇するためには、誰が見ても納得できるようなもっともな理由があり、その理由から解雇という手段をとることが社会的に見て適切であると判断できる必要がある、ということです。この条件を満たさない不当な解雇は、たとえ会社が解雇を告げたとしても法的に無効となります。
パートやアルバイトであっても、この「解雇権濫用の法理」の適用対象となります。正社員だから解雇が難しい、非正規だから簡単だ、という違いはありません。
雇い止めとは?
次に「雇い止め」について説明します。パートやアルバイトの方は、1年契約や半年契約といった期間の定めのある労働契約を結んでいる場合があります。雇い止めとは、この契約期間が満了した際に、会社が労働契約を更新しないことを指します。
契約期間が満了すれば労働契約は終了するのが原則ですが、雇い止めについても労働契約法で一定のルールが設けられています。
特に重要なのは、労働契約法第19条です。この条文は、有期労働契約(期間の定めのある契約)が反復して更新されているなど、一定の要件を満たす場合に、雇い止めが解雇と実質的に同じように扱われるべきと判断される可能性があることを示しています。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合、契約期間満了後も引き続き雇用されると期待することに合理的な理由がある(「期待権」がある)と認められやすくなります。
- 過去に契約が繰り返し更新され、事実上期間の定めのない契約(無期契約)と変わらない状態になっている場合
- 会社の採用面接などで、契約更新を期待させるような説明を受けていた場合
- 契約書に「契約更新の可能性あり」と記載されている場合
このような期待権が認められる場合、会社が雇い止めをするためには、解雇と同じように「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要となります。理由なく、あるいは納得できない理由で雇い止めされた場合は、不当な雇い止めとして争うことができる可能性があります。
どのような場合に解雇や雇い止めが無効になりうるか
以下のような場合は、解雇や雇い止めが無効と判断される可能性があります。
- 労働契約法第16条(解雇)に違反する場合:
- 遅刻や欠勤が数回あった程度など、ごく軽微な規律違反を理由とした解雇
- 業務能力が低いという理由だが、会社が改善のための指導や教育を一切行っていなかった場合
- 経営不振を理由とする人員削減(整理解雇)だが、他に解雇を避ける努力(配置転換、希望退職募集など)を怠っていた場合
- 特定の思想や信条を理由とした解雇(労働基準法第3条違反)
- 労働組合活動をしたことを理由とした解雇(労働組合法第7条違反)
- 労働契約法第19条(雇い止め)に違反する場合:
- 過去に何度も契約更新が繰り返されており、無期契約と実質的に変わらない状態で働いていたにもかかわらず、特に理由なく雇い止めされた場合
- 会社側から契約更新を期待させる言動があったにもかかわらず、一方的に雇い止めされた場合
契約書に「契約は更新しない」という趣旨の「不更新条項」が記載されている場合でも、過去の更新実績や会社側の言動によっては、必ずしも雇い止めが有効になるとは限りません。契約書の内容だけでなく、実際の働き方や会社の運用実態が重要になります。
不当な解雇や雇い止めに対してどう対応するか
もし、ご自身の解雇や雇い止めに納得できない場合、以下のステップを検討することができます。
- 会社に説明を求める: まずは、会社に対して解雇や雇い止めの理由について、具体的な説明を求めましょう。可能であれば、書面で理由を提示してもらうと、後の対応で有利になることがあります。「解雇理由証明書」や「退職証明書」の交付を請求することができます。
- 証拠を集める: 労働条件通知書、雇用契約書、給与明細、シフト表、会社の就業規則、業務に関するメールや指示書、雇い止めに関する通知書や会社とのやり取りなど、ご自身の労働実態や解雇・雇い止めの経緯を示す証拠となりうるものを可能な限り集めておきましょう。
- 社内の相談窓口に相談する: 会社に相談窓口がある場合は、そこに相談することも選択肢の一つです。
- 外部の専門機関に相談する:
- 労働組合: 労働組合に加入している場合や、地域合同労組のような個人で加入できる労働組合に相談できます。会社との交渉を代行してくれる場合があります。
- 労働局: 厚生労働省の機関である労働局(または都道府県労働局)に設置されている総合労働相談コーナーに相談できます。無料で相談でき、あっせん制度(労使間の話し合いを労働局が仲介する制度)を利用することも可能です。
- 弁護士: 労働問題に詳しい弁護士に相談することも有力な選択肢です。法的な観点からのアドバイスや、会社との交渉、裁判手続きなどを依頼できます。
不安な気持ちを一人で抱え込まず、まずは相談してみることが大切です。
まとめ
パートやアルバイトの方も、働く上で知っておくべき権利を持っています。会社は、法律に定められた要件を満たさなければ、一方的に解雇したり、雇い止めをしたりすることはできません。特に、契約更新を繰り返して長く働いている場合は、雇い止めが無効になる可能性も十分にあります。
もし、ご自身の解雇や雇い止めについて疑問や不安がある場合は、決して諦めず、まずは会社の対応を確認し、必要であれば労働局や労働組合、弁護士などの専門機関に相談することを検討してください。ご自身の権利を守るために、一歩踏み出す勇気が重要です。
この情報が、非正規雇用で働く皆様の不安を少しでも和らげ、ご自身の状況を正しく理解するための一助となれば幸いです。